'S Wonderful
2011年3月にリリースされたファーストアルバム『マリアッチ・パンクス』に続くセカンドアルバム『’S Wonderful』。武藤は普段のドラムではなく、ガット・ギターとヴォーカルを担当。ウエノも通例のエレキベースではなく、アコースティックベースを起用、両氏これまでのキャリアとは多少趣きも異なるユニット”武藤昭平 withウエノコウジ”(以下、”武藤ウエノ”)。武藤のガットギターとしゃがれ声のヴォーカルに、ウエノの強烈なロック・スピリット溢れるアコースティックベース。今にもフラメンコを踊る美女が飛び出して来そうなこのバンドサウンドを一言で表現すれば”二人マリアッチ”。(メキシコを代表する楽団の様式)メキシコのマリアッチは常に生活に密着したもので、冠婚葬祭、あるいは人生の記念日、人々の生活に寄り添う音楽。インターネットが発達して以来、音楽が身近になったというけれど、音楽が本来持つ”生っぽさ”はむしろ、疎遠になった気さえする。二人組のバンド、武藤ウエノはそれをあざ笑うかのように、全国の呑み屋に出没をしてはライヴを行う。
ウエノがいみじくもこう語ってくれた。「呑み屋に行く感覚で音楽を楽しんで欲しいんだよね」。武藤が続けてくれた。「呑みに行った先にいい音楽があって、その音楽を通してコミュニケーションが取れたら最高だろうな、って。音楽をもっと身近に感じて欲しい、というより音楽はもっと身近であるべきだと思う。この二人編成のバンドなら何処でもできる。呑み屋でもできる。その最少限の編成がこの二人だと思ってる」。 コンセプトが先か、呑み屋でやることが先だったかは、ここでは不問にするが、まさに僕らの日常生活の悲喜交々に寄り添うためのバンドが武藤ウエノのコンセプトなるわけだ。
そんな武藤ウエノの新作『’S Wonderful』。タイトルは1920年ごろの流行語から。その言葉を見つけ、粋だと感じ、タイトルに冠した。アルバムを通して聴くと、日常に寄り添うように悲喜交々の感情が描かれている。しかもそれは、決して色褪せることのないテンションと温もりを帯びている。
それにしても二人で作ったとは思えない傑作。鳴っているのは二人が弾くガット・ギターとアコースティックベースの二つの楽器の音だけ。にも拘わらず、コーラスワークも含めとても多角的にサウンドが作られている。
人生は悪いもんじゃない。武藤ウエノの『’S Wonderful』にSalud!
〈収録曲〉
- ザ・パイド・パイパー・ブルーズ
- ブエナ・ビスタ
- イングリッシュマン・イン・ニューヨーク
- デスペラード・セレナード
- ロスト・カーニバル
- パラダイス・ダンス
- 孤独なパリ
- コヨーテのアンサンブル
- リデンプション・ソング
- カルト・レインボウ
- ライフ・イズ・ワンダフル